破壊


指先に唇をのせる。
そのまま、つう、と手の甲まで舐め上げて、音をたててキスをする孔明の動きは流れるようで、樊瑞はぼんやりとそれを眺めていた。
反応のしかたが分からない、といったふうだったが、しばらくして思い出したように腕をひっこめる。すばやくマントの下に両腕を隠す。顔面が熱をもつ。


孔明の品のない動作に、自分まで後ろめたいことをしているような気がした。


「なにをするか」
「なにとは?」


笑う孔明の口元が妙に憎らしい。
マントの中で、手の甲の一部、孔明の舌がなぞった部分だけが、さっと冷たくなる。
普段ならば組織内の誰よりも品行だの衛生だのに口うるさいこの男が、その唇についた唾液をいたって冷静に指でなぞってふき取るさまが、樊瑞の目にはひどくいやらしく映った。 ととのえられたスーツの裾からその手にゆれる羽扇から口の両脇のヒゲまでもが、意味もなく腹立たしい。




「私が素直に答えたことをあなたが信用しますので?」




何事もなかったように、孔明はするりと樊瑞の横を抜けてゆく。事実彼にとっては何事でもなかったのだろう。悪いことをしました。すれ違いさまに孔明はちいさくつぶやく。
それは人を小馬鹿にした言い方ではなく、だからといって本心から謝ったようにも到底思えなかった。







そしていつもの十傑集ダッシュで逃げる樊瑞。


















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