ひとでなしの恋 ぱちんぱちんというリズムがやむことはなく、マスクザレッドは笑っていなかった。 「君たちと一緒に仕事すると楽だねえ」 セルバンテスお得意のなれなれしい笑みでもって話しかけてみても、当然のように無表情で、忍者はしゃがんだ姿勢のまま、視線だけをセルバンテスになげている。 「どういう意味だ」 「君たちは楽しそうに斬るね、って。それだけの話」 「ヒィッツカラルドのことか」 「彼もだしキミも」 ああいう目立つのがいてくれると助かるよ。 猛スピードでスクロールされてゆくディスプレイに目を通しながら、セルバンテスは適度な眠気を噛み潰していた。再びぱちんと、空気の切れる音がする。今頃あの男は気分よく人を殺している最中だろう。 仕事はあくまでも機密データの奪取と破壊。片付けは彼らにまかせればいいのだから実に楽だ、とセルバンテスは思う。アルベルトと共同の仕事では、さすがにこうはいかない。 「退屈なら、きみも遊びにいって構わんよ」 「そうはいかん。貴様に何かあったら、俺がどうにかしなきゃならんのだからな」 「ほう、それは有難い」 コンピューターの冷却ファンが、生暖かい空気を送り出す。粉薬を一面にまいたような、甘ったるい空気を吸い込んでセルバンテスはむせた。機械は融通がきかなくて困る。人間だったらものの10秒で壊してみせるというのに。 「だけど結構だよ、私は保険だからね」 捨てるようにやわらかくセルバンテスは言う。 「斬るしか能のない君たちが、何かしでかした時の為の、ね」 「は、そいつは心強い」 どこからか聞こえるぱちんというリズムと、赤い絨毯と春の陽気。レッドはにい、と口元を歪ませた。 「それじゃあ、あれ、斬っちまった時は頼んだぞ」 「あれって、彼?」 セルバンテスはいよいよあきれたように鼻で笑い、瞳の奥を歪ませる。 「アレに一体なんの値打ちがあるって言うんだい」 マスクザレッドは声をあげて笑い、「内緒」とつぶやいた。 |
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