この世に未練が出来てしまった!


我慢がきかなくなった、という至極簡単な理由でしかなかった。
ヒィッツカラルドの指は力なく男の腕にからむ。それが抵抗だということは分かったうえで、レッドは男の口の中に深く舌をさしこんだ。男の体中を巡る恐怖が、ひたすらにレッドの鼓動を狂わせた。


「あ、ぐ」


ヒィッツカラルドの喉は白く、一度大きく震えると、ぎゅううと軋んで動かなくなる。緊張した男の体をたしかめるように、レッドはぎゅう、とソファにそれを押しつけた。ソファの上で二人、まるで恨みを晴らしあうようにキスをしている。


「うぐ、っ」
「どうした?苦しそうにして」


息を飲む音すらからめ取り、子供をあやすように笑いながら喉奥にねじ込んでやると、ヒィッツカラルドの腹が大きくはねた。呼吸も鼓動もすべて、押さえつけられた中で暴力的に速度をあげる。


「…ヒィッツカラルド」
「ひっ」


声が喉の奥でしぼられ、男の体が大きく痙攣した。


「なあ」


弾けたように男が身をよじる。赤い男を引き剥がし、ヒィッツカラルドは顔をふせて大きく咳き込んだ。げえげえと震えながら、懸命に呼吸をとり戻す音ばかりが聞こえる。腹が立つ。頭にくる。そんな感情とは違う、どこか恨めしいような心地だと、レッドは思った。


「いいかげん、にっ、してくれ…っ」
「何が」
「貴様っ…!」
「…まだ、渡さないからな」


茶の髪に指をからませる。頭蓋にそって髪をなでてみると、ヒィッツカラルドは不思議と大人しく、されるがままになっていた。いつだってその、死を目前にした瞳で見ていて欲しいとレッドは思う。白い瞳に恐怖だけを映せばいい。その目で見て欲しい。


「まだ惜しい」


死の前に差し出すのはまだ惜しい。満たされていて、それでいてひどく惨めな気持ちだ。
















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