自分の血と他人の血の区別がつかなくなることは本当にあるのだと、そのときマスクザレッドは知った。長い間ふれていると温度がまざって、自分のそれと他人のそれとの境目がなくなる。体温によく似ている。急激に冷えてゆく体を抱えながら、この瞬間がまさにそうなのだと理解すると、つられたように口の両端が持ち上がる。体中がおどろくほどだるいのに、何もかもが初めての体験で、男は少しだけ興奮している。 覚えている、最後にこの感覚を味わったのはずいぶん前だ。 「少し寝る」 誰にでもなく笑いかけて、ゆるゆるとまぶたを閉じる。 「なに、ほんの少しだ。すぐ起きる」 背中をあずけた岩のじっとりした湿気と、顔にはりつく髪の冷たさばかりが、妙にはっきりと感じ取れる。腹の傷が熱いのか冷たいのか、もう理解もできないというのに、末端の感覚ばかりが冴え渡る。 「だからまだ、呪いに来るなよヒィッツカラルド」 連れて行かれてもいいかと、思っているのは本心だ。それはそれで面白い。ばらばらに切り刻んだあいつの指が、いまこの指先にふれたら笑ってやろう。笑って笑って握り返してやろう。 いま左胸で他人事のように暴れる心臓は、きっとあの男のものだ。 見えない糸で引かれたように、くるり、と後ろを向いてレッドは黙る。右腕にぴりぴりとした痛みを感じ、表情を曇らせる。 すこし前をのしのしと進んでいた怒鬼が、様子を見に来る。問題ない、と返す。 「なに、ヒィッツカラルドの仕業だ」 からっとした笑い声は、乾いた空気によく響いた。問題はない、まだ覚えている。 お題「戦場のメトロノーム」+「決して美しくない恋人たち」 タイトルはたしかギニーピッグのシリーズのタイトルからぱくってきました。 一応レドヒツひと区切り。ジャンプの打ち切り最終回みたいな |
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