見果てぬ夢


笑っている、とレッドは思った。
目の前の男は笑っている。いままで気づかなかっただけで、この男はずっと無表情のまま笑い続けてきたのだろう。 じくじくと染み出す血液は心地よく体を濡らし、ふれた怒鬼の顔は泥のように汚す。


「ひとでなし、というのは、お前のようなヤツを言うのだろうな」


にい、と歯を見せてレッドは笑う。目の前の男がとうの昔に捨ててしまったものを、自慢げに見せつける。人でなし、とはよく言ったものだ。 人の形をしていながら、獣の血をめぐらせる自分たちにふさわしい。まさにその通りだと、思う。


「怒鬼」


畜生、外道、人でなし。
そんな名前をつけたところで、この体は人をやめられない。それでもその名で呼ばれたい。死んだらざまあみろと言われたい踏まれて蹴られてどろどろになりたい。ずっとそう考えながら人を殺してきた。 怒鬼はまばたきをすることもなく、うすく開いた目で死にかけたレッドを見ている。その目玉に本当に自分は映っているのか。確かめたくなって、レッドはふっくらと持ち上がる目蓋の隙間に汚れた指を差し入れる。押し返す目玉の感触。それでも目の前の鬼の表情は動かない。


「おれは人しか殺せないのだな」


これ以上の屈辱はなかった。
人を捨てた男はレッドの望むものをすべてを持っている。憎いと思う。欲しいとも思う。体中の力が抜けおちたように、怒鬼は膝から地に落ちると、温度のない指でレッドの頬にふれた。なでることも、殴ることも、払うことも自由だった。


「なあ、答えろ。直系の」


救いのない場所で、喉が裂けるまで叫ぶために二人生まれてきたのだ。















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