座敷牢



どうしてこんなことに慣れてしまったのだろうと思いながらも、ヒィッツカラルドは落ち着いた様子で血をふいた。鼻の中とそのわきと唇が切れている。
手の甲になすりつけるように、血の流れをせき止めるように、ゆっくりとこする。
頭の後ろでは、男のどなり声なんだか笑い声なんだか、どっちともとれる声が流れている。


「お前、おっかしいなー」


しゃべる男の顔を覆うマスクはSM用の仮面にもよく似ていて、こういうシーンに笑えるほどよくなじむ。そういえばどうしてあんなものをしているのだろうと、よりにもよって
この瞬間にヒィッツカラルドは思った。
その思いは、流れる血がすっかり嘘みたいに止まって、体温も呼吸も元にもどった頃にきっと忘れてしまう。今までだって何度も、そう思ったことはあったのだろう。


「なんで人殺すときに汚れない手、こんなとこで汚してんだろうなー」

「知るか」
「びっくりしたろ」


お前の手もちゃんと汚れんだよ。忘れんなよちゃんと見とけよ。


笑う男の機嫌はすこぶる悪く、怒鳴るたびにガタガタとテーブルが揺れる。その上に腰かけて立膝をつく男の仕草に、ヒィッツカラルドはふと野外任務を思い出す。
いつだって落ち着きがない。公私に関係なく、血をみればいつもこうだ。


べとべとした鉄のにおいのする手で男にさわってみようか。そうしたら彼はもっとちゃんと笑うのだろうか。この気まぐれな破壊の理由をさけぶように話してくれるのだろうか。


「黙ってくれ」


毎回のようにそう思いながらも、おく病なヒィッツカラルドはそれを実行したことがない。
フロアリングの床をけってひやりとするドアノブをひっつかんで、部屋を出ることしかできない。じっとりと湿った床は、一歩あるくたびに、靴の先が埋まる心地がする。
ヒィッツカラルドの右手はもうすっかり赤い。


「気いつけろよ。孔明がみたら多分びびる」


振り返る。レッドは両手をポケットにしまったまま、ひっくりかえったイスを右足で器用に持ち上げていた。視線はこちらにはない。ついさっきの事などすっかり忘れてしまったのだろう。ドアを閉じる。

レッドは持ち上がったイスをふたたび床に放した。放して蹴りつけた。ばきゃんと愉快な音がする。


「つまんねえ」


イスを割ってみたところで、それはなにも愉快ではない。











見直してみるとレッドの人格が面白いことになってるんですけど、これはまああえて、このままで。仕様です。










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