拾いあつめて犬にやる



もったいないことしたと突然レッドが言った。ラーメンをすすっている時だった。
一度持ち上げた箸をわざわざおろし、どんぶりの淵にからんと乗せると、向かいに腰かけた怒鬼の顔を見て言う。


「あいつの手、忘れてた」


怒鬼はラーメンを口の中いっぱいにもぐもぐしたまま、どういうことだ、と仕草する。
それからもラーメンをかき込む手をとめることはなく、しょう油のにおいの湯気を目の前に立たせながら、ごうごうと麺を吸い込み、噛み、飲み込み、をくり返している。
もともと感情を言葉で示すことのない男だった。これが彼なりのコミュニケーション手段であることは十分しっているから、レッドはなれた様子でその感情を読みとる。


「ヒィッツの。手。とってくんの忘れた」




殺したときはつい興奮して忘れていた。いまとなって思えばあの手を奪ったことが気持ちよかったんだろうに、どうしてあんなところに放っておいたりなんか。


数ヶ月前まで同僚だった男の、手が欲しかったのだとマスクザレッドは言った。
それは武器とも兵器とも命綱とも一発芸とも呼ばれていて、なんにせよ同僚、素晴らしきヒィッツカラルドの唯一だった。 それがどうしてもほしかったのだと、男はとつぜん思い出したのだった。


レッド本人の手でヒィッツカラルドを殺してから、実に4ヶ月がたっている。
「お前ラーメン食うのちょっとやめろよ」と合間にはさんで、レッドはそれらを一息で言いきる。


思い出したように、ではない。彼は思い出すたびに話しているだけだった。
興奮がようやく冷めてきたらしい。ここ最近になって、レッドの口からこの話が出てくるのを、怒鬼は何度も耳にしている。思い出すたびにぽたりと、破片をあつめるようにレッドは話し出す。


根拠はない。それでもいつか、すべてを自覚した時に、この男は発狂するのではないかと怒鬼は思っている。




「なあ怒鬼」


湯気のたたないラーメンをすすりながらレッドが再び話しかけてくるからどうせろくでもない提案だろうと思ったら、「あいつの手まだ残ってたりしねえかな」と案の定なことを言い出したので、怒鬼は備え付けの爪楊枝を手にとって、レッドのどんぶりに何本もふりかけた。
















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