目を閉じて、セルバンテスはしだいに大きくなる友の声を聞いていた。
日頃、じっと集中して聞いていたその声は、耳を傾けることをしなくてもずいぶん大きく響くようになる。なってしまったかとセルバンテスは息をつく。


「ダメじゃないか、きみ」


彼は追うことが似合っていた。追われることの多い組織のなかで、それこそネズミとおっかけっこをするネコの漫画のように、ずっとずっと一人の男を追いかけていた。それを見ることだけが楽しみだったというのに。


ダメじゃないか、もう一度つぶやく。


もうすぐここで、彼の声が聞けるようになるのかなァと、セルバンテスはレンズ越しの世界を見ながら考えていた。不謹慎だということは知っている。けれどひどく安心したのも確かだ。


川だとか花畑だとか、そんな良心的なものはどこにもない。来るときは来ちまうんだから仕方ねえだろみたいな、ものすごく男前なシステムがここでは適用されている。
だからきっと、会えるのならば突然だ。それは今か、1秒後か。


「あいつぁうるさくって敵わねえなあ」


後ろでいびきをかいていたネズミが一匹、起き上がる。
くっとひとつ伸びをして、ここでも満足に寝られやしねえとあくびまじりに笑う大ネズミに、あんたまた寝ていたのかと、持てる限りの嫌味をほうり投げる。


「ちゃんと聞こえてんだから、ちっとは小さくできんのかね」


かつて宿敵と呼んでいた男が、今ではこんなに近くにいることが不思議だった。気がついたら隣にいた。恨みというか願いというか、やはり会えるものなのだなと感心した記憶がある。




「ここは人を駄目にするんでなあ」
「まったくだ」


ネズミはさっきから首をばりばり掻いている。いかにも居心地がわるそうなその動作が、そういえば追い詰められたときの彼のくせだった。すまねえなと、消えるようにネズミがつぶやく。


「何の話だね?」
「いやあな」


そういえばネズミには戴宗という名がついていたが、その名で彼を呼んだことはない。生前もどうだったか知れない。ただ思い出すのは、その名前を呼ぶ友の声ばかりだ。 今だって、ひとつ、彼はその名前を呼んだ。


「ネズミが手ぇ引いちまったかも、と思ってよ」


自意識過剰な大ネズミに、きみ寝ていなかったんじゃないかとクギを刺す。
それでももう殺すなど、どうやっても無理な事だった。







セル→アル→戴宗のワンウェイぶりがたまらない
戴宗がこの直前に大作の側にいたのはえー忘れてました。が。










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