マスクザレッドはときおり思い出したように、パッケージを空けたらそのままチューブでしぼり出せる状態になっている出来合いの生クリームだの真っ赤な合成着色料がしたたる子供用の菓子だのを食べはじめる。今日はとけかかった真っ黒いアイスバーをかじっている。
ヒィッツカラルドがその有害な色に気づいたのは外灯の下で、すぐそばで羽虫だかちいさい蛾だかがくるくると回っている。回る必要性がヒィッツカラルドにはよくわからなかったが、目の前の男が有害な色のアイスバーをかじることに比べたらきっと何かしらの理由があるのだろうと思う。


「なんだってそんな色してるんだ」
「なかなかうまいぞ、どうだ」
「金を積まれたって食うものか」


食べることが億劫でならないと、口癖のようにマスクザレッドは言う。
何日も食べない日がつづくと慣れてしまうという。体がどうかしちまうんだなと笑う。そう言いながらあざやかな色のフルーツジュースを喉のおくに流し込んだりしている。人の食べ残しにもやたらと手を出す。


「たしかにどうかしているな」
「なにが」
「お前の体」


細長い手足を見ても、関節ばかりが目立つ。
レッドの手の中ではアイスバーがとけだして、黒い液体が手の凹凸にはりつく。わざわざ探り当てるように、ほそい隙間へと流れる。レッドはうわと声を出しながらも、舐めとるでもなく振り払うでもなく、小さくなったアイスのかけらをゆっくりと口に運ぶ。いつのまにかアイスは毒々しい赤に色を変えている。


「ヒィッツ」


べっと子供のような仕草でさし出された男の舌は、涼しげな黒色をしている。直後に殴られた。放り出された男の拳は、べとついたオレンジ香料の匂いがした。
















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